Gemini Managed Agents|移行が要る条件
「Gemini Managed Agentsのハーネスが新しくなったらしいが、自分のコードは直す必要があるのか」「旧版が終了すると聞いたが、何をいつまでにやればいいのか」——AIエージェントを業務に組み込んでいる方ほど、この種の告知を見た瞬間に手が止まります。
結論から言うと、今回の更新で必要な作業量は「AIの出力のどこに依存していたか」だけで決まります。最終的な回答文だけを読んでいた場合は、指定する文字列を1つ差し替えれば終わりです。途中の道具呼び出しまで自分で解析していた場合は、引数の書き方とファイル編集の方式が変わるため、まとまった修正が要ります。この線引きは公式の移行案内そのものに書かれています。
株式会社Fyveは、中小企業のAI導入支援と、自社の業務を無人で回す仕組みづくりを手がけています。本記事では、Googleが公開した一次情報だけを根拠に、今回の更新で「何が変わり」「誰に作業が発生し」「いつまでに何を確認すべきか」を整理します。報道で数字が食い違っている点も、食い違っていること自体を含めてそのままお伝えします。
結論:移行の重さは「出力のどこまで覗いていたか」で決まる
先に答えを置きます。今回の更新に対して、あなたがやるべきことは次の2通りのどちらかです。
- ほぼゼロで済む人:リモートのサンドボックスでエージェントを動かし、最終的な出力テキストだけを受け取っていた場合。指定するエージェント名を新しい文字列に変えるだけで、他は何も変わりません
- まとまった修正が要る人:エージェントの道具を自分の環境側で実行していたり、途中の関数呼び出しの中身を解析していた場合。引数の命名規則とファイル編集の方式が変わったため、受け側の処理を書き直す必要があります
この2分法は、私たちが記事のために考えた整理ではありません。Googleのリリースノートが、移行の説明をこの2つの場合分けで始めています。つまり提供元自身が「読者は2種類に分かれる」と認識した上で告知を書いているということです。
そして、ここには一般化できる教訓があります。AIに仕事を任せるとき、出力のどこまで中を覗いて依存したかが、そのまま将来の移行コストになります。深く覗くほど細かい制御ができますが、深く覗いた分だけ、提供元の内部が変わったときに壊れます。この判断は、Geminiに限らずあらゆるAIエージェント基盤に共通します。
ハーネス(AIモデルを実際に動かす外側の器)とモデルの役割分担そのものについては、別記事で整理しています。
2026年9月17日に何が起きたのか
まず事実を、公式の記載だけで確定させます。
新しいハーネスが旧版を置き換えた
Gemini APIのリリースノートには、2026年9月17日付で次の内容が記載されています。antigravity-preview-09-2026 をリリースし、これが antigravity-preview-05-2026 を置き換え、かつ非推奨にする、というものです。
ここで言う「ハーネス」は、Managed Agents(マネージドエージェント)の実行基盤にあたる部分です。Gemini APIのManaged Agentsは、1回の呼び出しで、推論し・道具を使い・隔離されたLinux環境でコードを実行するエージェントを立ち上げられる仕組みです。その実行を取り仕切っている外側の器が、今回世代交代しました。
公式ドキュメントによれば、このAntigravityエージェントはGemini 3.8 Flashで構築されており、Antigravity IDEと同じハーネスを使っています。土台となるGeminiモデル自体は設定で変更できる構成です。
旧版の終了日は「最も早くて」2026年10月5日
旧版の扱いも公式に明記されています。Geminiの提供終了予定(deprecations)ページのManaged Agentsの欄には、次のように並んでいます。
antigravity-preview-09-2026:リリース日 2026年9月17日antigravity-preview-05-2026:終了日 2026年10月5日
ただし、ここは読み方に注意が要ります。同ページには「表に記載された終了日は、そのモデルが廃止される可能性のある最も早い日付を示す」という但し書きが付いています。さらに「実際の終了日は、円滑な移行のために事前告知の上でユーザーに伝える」とも書かれています。
つまり10月5日は締切そのものではなく、締切の下限です。「まだ先に延びるかもしれない」と解釈して作業を後ろ倒しするのも、「この日に必ず止まる」と解釈して慌てるのも、どちらも正確ではありません。10月5日以降はいつ止まってもおかしくない状態に入る、と理解するのが実態に一番近い読み方です。
なお、提供終了の告知をどう追いかけ、自社の利用状況をどう棚卸しするかについては、こちらで手順化しています。
公式の移行案内は、読者を2つに分けている
ここが本記事の核心です。リリースノートの移行説明は、次の2文から始まります。
道A:文字列を1つ差し替えて終わる人
1つ目の条件は、リモート環境(environment: "remote")でエージェントを動かしており、かつ出力のうち output_text または model_output のステップだけを読んでいる場合です。この場合、公式の案内は明快で、エージェントを指定する文字列を更新するだけで、他には何も変わらないとしています。
実務的には、コードの中の "antigravity-preview-05-2026" を "antigravity-preview-09-2026" に書き換える作業です。設定ファイルや環境変数でエージェント名を外出ししてあれば、コードには一切触れずに終わります。
道B:組み込みツールの変更を受ける人
2つ目の条件は、道具を自分の環境側で実行している(local_environment)か、function_call のステップを解析している場合です。この場合、組み込みツールそのものが変わったと明記されています。変更点は大きく2つです。
- 引数の命名規則が変わった:スネークケース(
target_fileのような書き方)から、パスカルケース(TargetFileのような書き方)へ - ファイル編集の方式が変わった:ファイル全体を書き直す方式から、行範囲を指定して置き換える方式へ
この2つは、受け側のコードにとっては別物です。命名規則の変更は文字列の対応付けを直せば済みますが、編集方式の変更は処理の考え方そのものが変わります。全文を受け取って保存していた処理は、行番号の範囲と置換内容を受け取って部分的に当てる処理に作り替える必要があります。

組み込みツールの新旧対応表
リリースノートには、新旧のツールを並べた対応表が載っています。要点を整理すると次のようになります。
できること | 旧版(05-2026) | 新版(09-2026) |
|---|---|---|
ファイル作成 |
|
|
ファイル編集 | 全文を書き直す方式 |
|
ファイル読み取り |
|
|
ディレクトリ一覧 |
|
|
ファイル・コード検索 | 専用ツールなし(シェルコマンドで代用) |
|
シェル実行 |
| 変更なし |
Web検索 |
| 変更なし |
この表から読み取れることが2つあります。
1つ目は、検索が「専用の道具」に昇格した点です。旧版では、ファイルを名前で探すのもコードの中身を探すのも、エージェントがシェルコマンドを組み立てて実行していました。新版では名前で探す道具と中身を検索する道具が独立しています。エージェントが毎回シェルコマンドを考えて書く必要がなくなった、ということです。
2つ目は、ファイルの読み書きが「バイト位置」から「行番号」に揃った点です。旧版の読み取りはバイト位置の指定でしたが、新版は開始行と終了行の指定です。編集も行範囲の置換になりました。読むときも書くときも同じ単位(行)で扱えるようになっています。
そして、この変更はコストにも効きます。ファイル全体を書き直す方式では、1文字直すだけでもファイル全文を出力しなければなりません。行範囲の置換なら、直す部分だけを出力すれば済みます。出力量が減るということは、そのまま出力トークンの請求額が減るということです。
「性能が上がった」の数字を、いま断定で書けない理由
ここは正直に書きます。今回の更新について、いくつかのメディアが具体的な改善率を報じています。しかし私たちが確認した限り、これらの数字はGoogleの公式ドキュメント上には見当たりませんでした。そして、報じている媒体の間でも数字が一致していません。
- ある媒体は、ファイル変更時の出力トークンが40%削減、複数ターンのタスク完遂率が最大6%向上、長い会話でのキャッシュヒット率が最大16%向上と報じています
- 別の媒体(NPowerUser)は、長い多段タスクでのキャッシュヒット率が22%改善、複雑なコーディング作業で9%向上と報じています
キャッシュヒット率の改善だけを取っても「最大16%」と「22%」で食い違っています。どちらかが誤っているのか、測定条件が違うのか、私たちには判定できません。判定できないので、本記事ではこれらの数字を事実として採用しません。
これは細かい話に見えて、実務では重要です。AIツールの性能向上率は稟議や導入判断の根拠として引用されがちですが、出所をたどると公式の記載がなく、媒体ごとに数字が違うことは珍しくありません。社内資料に転記する前に、一次情報に当たる習慣を持つかどうかで、後で恥をかく確率が変わります。
公式ドキュメントに載っている数字は、まったく別の話
一方で、公式ドキュメントには改善率とは別種の、実務で役に立つ数字が載っています。Antigravityエージェントの解説ページに書かれているものです。
- 入力トークンの50〜70%は、通常キャッシュされる
- 道具の呼び出しが多い複雑なエージェント処理では、1回のやり取りで300万〜500万トークンに達することがあり、費用は最大で約5ドルになる
この2つ目は、費用感を掴む上で「改善率が何%か」よりずっと実用的です。1回の処理で数百円かかりうるということは、1日100回動かせば日額で数千円から1万円規模になります。エージェントに任せる仕事を決めるときは、この単位で考える必要があります。

単価が据え置きでも実際の請求額は動く、という構造については、同じくGeminiの別機能で詳しく書いています。
あわせて入った「認証情報」の考え方
今回の更新では、エージェント向けの認証情報(Credentials)の扱いについても公式ドキュメントにページが設けられています。Googleの公式スキルリポジトリでも、2026年9月17日にマージされた変更で、エージェントを新ハーネスに更新すると同時に、新しい認証情報のページを参照先に加える対応が入っています。
考え方の要点は「認証情報をエージェントの実行環境の中に置かない」という点です。外部サービスを呼ぶときに必要な鍵を、AIが読める場所やサンドボックスの環境変数に置いてしまうと、AIの出力や記録の経路に鍵が漏れる可能性が残ります。これを構造で断つ設計です。
中小企業がAIエージェントを業務に入れるとき、ここは見落とされがちですが決定的に重要です。AIに権限を渡すのではなく、AIが権限を「持たないまま使える」形にできるか。この問いに答えられない構成は、動いてはいても運用に乗せるべきではありません。どこまでをAI側に預けるかの線引きは、こちらでも整理しています。
無人で動かすものほど、版は明示で釘付けにする
ここからは、私たち自身の運用の話です。今回の更新は、私たちが自社で守ってきたルールの正しさをそのまま裏づける形になりました。
私たちは、自社の情報発信や定型業務の一部を、人が見ていない時間帯に自動実行されるジョブとして回しています。その運用で、早い段階から次の3つを決めています。
1. 使うモデル・版をジョブ側で必ず明示する
自動実行するジョブでは、使うモデルや版を必ず引数で明示的に指定し、実行環境の既定値に任せないことをルールにしています。既定値に任せると、提供元が既定を切り替えた日に、こちらは何も変えていないのに出力の質やコストが変わります。しかも人が見ていない時間帯に変わるので、気づくのは数日後です。
今回のケースで言えば、エージェント名を設定値として1箇所に外出ししてある構成なら、移行はその1行を書き換えるだけで終わります。逆に、コードのあちこちに版の文字列が散らばっていると、移行のたびに探し回ることになります。
2. 依存するのは「最終出力」だけに限る
2つ目は、AIの出力のうち最終的な成果物だけに依存し、途中経過の構造には依存しないという方針です。途中の道具呼び出しの中身を解析して分岐させると、確かに細かい制御ができます。しかしその瞬間から、提供元が内部の道具を変えるたびにこちらが壊れます。
今回の公式案内は、まさにこの線で作業量が分かれると言っています。最終出力だけを読んでいた人は文字列の差し替えで済み、途中を解析していた人は書き直しになる。「浅く依存する」ことが、そのまま移行コストの節約になっていたわけです。
3. 「何もしない」は現状維持ではないと理解しておく
3つ目が、今回いちばん伝えたい点です。旧版が終了した後、その名前を指定し続けているコードがどうなるかを考えてみてください。エラーで止まるか、新しい版に振り替えられるか、いずれにせよこちらの意図とは無関係に状態が変わります。
人が画面の前にいる作業なら、挙動が変わってもその場で気づけます。しかし無人で動いているジョブは、変わったことに気づく仕組みを別に持たない限り、静かに違う結果を出し続けます。だから私たちは、自動実行するものほど版を固定し、変えるときは意図して変えるようにしています。
「まだ移行していないだけ」と「移行しないと決めた」は、まったく違う状態です。前者は放置すると後者に化けます。
今日できる確認手順(5ステップ)
ここまでを踏まえて、実際に何をすればよいかを手順にします。所要時間は、規模にもよりますが30分程度を見込んでください。
- 旧版の名前を全文検索する:コード・設定ファイル・環境変数・ドキュメントを横断して
antigravity-preview-05-2026を検索します。1件も出なければ、そもそも影響を受けていません - 実行環境の指定を確認する:
environment: "remote"で動かしているか、local_environmentで道具を自分の側で実行しているかを確認します。前者なら道A、後者なら道Bです - 出力のどこを読んでいるかを確認する:
output_textやmodel_outputだけを読んでいるか、function_callの中身まで解析しているかを確認します。後者があれば道Bです - 道Aなら文字列を差し替える:エージェント名を新版に更新し、1回動かして結果を目視で確認します。設定値として外出ししてあれば1箇所の変更で済みます
- 道Bなら受け側を作り替える:引数の命名規則(パスカルケース)と、ファイル編集が行範囲の置換になった点に合わせて、受け側の処理を書き直します。ここは検証環境で先に通してください
加えて、無人で動かしているジョブがある場合は、版を指定している箇所が1つにまとまっているかを今回のついでに点検することをおすすめします。次の世代交代は必ず来るので、そのときの作業量をここで決めておけます。
よくある質問
Q. 10月5日を過ぎたら、旧版を指定しているコードはどうなりますか
公式の提供終了ページには、終了後はエンドポイントが利用できなくなると記載されています。ただし前述のとおり、表の日付は「廃止される可能性のある最も早い日付」であり、実際の終了日は事前告知の上で伝えるとされています。10月5日で必ず止まると断定はできませんが、それ以降は止まりうる状態です。運用しているものがあるなら、日付を待つ理由はありません。
Q. モデルは変えずにハーネスだけ新しくできますか
公式ドキュメントでは、Antigravityエージェントは土台となるGeminiモデルを設定で変更できるとされています。ハーネスの版と、その上で動かすモデルは別の設定項目です。ただし新版ハーネスはGemini 3.8 Flashで構築されたものなので、組み合わせを変える場合は検証環境で挙動を確かめてから本番に入れてください。
Q. 報じられている「40%削減」は当てにしてよいですか
本記事では採用していません。公式ドキュメント上に該当する記載を確認できず、報じている媒体の間でも数字が食い違っているためです。社内の稟議資料や提案書に転記する数字としては使わないことをおすすめします。費用の見積もりは、公式に記載のある「複雑な処理で1回あたり最大約5ドル」のような実額ベースで組むほうが安全です。
Q. 自社はManaged Agentsを使っていませんが、読む意味はありますか
あります。「出力のどこに依存したかが移行コストを決める」という構造は、提供元を問わず共通だからです。AIに業務を任せる設計をするとき、最終出力だけを受け取る作りにしておくか、途中の構造まで使い込むかは、その後何年も効いてくる分かれ目になります。
Q. 中小企業がこの手の告知を追いかけ続けるのは現実的ですか
全部を追いかけるのは現実的ではありません。現実的なのは、「自社が実際に使っている製品・版の一覧」を1枚持っておくことです。一覧があれば、告知を見たときに自社に関係があるかを数分で判定できます。一覧がないと、毎回ゼロから調べ直すことになり、結果として追いかけるのをやめてしまいます。
まとめ
2026年9月17日、Gemini APIのManaged Agentsに新しいハーネス antigravity-preview-09-2026 が公開され、旧版 antigravity-preview-05-2026 は非推奨になりました。公式の提供終了ページ上、旧版の終了日は2026年10月5日ですが、これは「廃止されうる最も早い日」であり、確定した締切ではありません。
必要な作業は、リモート環境で最終出力だけを読んでいた場合はエージェント名の差し替えのみ。道具を自分の側で実行していたり、途中の関数呼び出しを解析していた場合は、引数の命名規則と、行範囲置換になったファイル編集方式に合わせた書き直しが必要です。
報道されている性能改善率は、公式ドキュメント上に確認できず媒体間でも食い違うため、本記事では採用していません。代わりに公式記載のある「入力トークンの50〜70%がキャッシュされる」「複雑な処理は1回で300万〜500万トークン・最大約5ドル」を費用設計の起点にしてください。
そして、今回いちばん持ち帰っていただきたいのは「AIの出力のどこまで覗いて依存したかが、そのまま将来の移行コストになる」という点です。無人で動かすものほど版は明示で固定し、依存は最終出力に絞る。株式会社Fyveは、この考え方を前提に中小企業のAI活用設計をご支援しています。
AIを使う会社と、使わない会社。
その差は、開き始めています。
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