公開事例の分析
大成建設 — 図面と仕様書を一緒に読ませて、施工計画書を10分で
公共工事の全体施工計画書の下書きを、10分・作業時間約85%減で作る仕組み。図面と文書を同時に読むマルチモーダルAIで、国土交通省の書式に沿った原稿を生成。「怪しい箇所を自動で特定する」仕組みが見どころ。
大成建設株式会社

- 業種
- 建設
- 規模
- 50名〜
- 使用AIツール
- OpenAI GPT(API連携)
- 業務領域
- 計画・設計書類・資料作成
- 導入形態
- 自走
- 成果
- 全体施工計画書の作成時間を従来比約85%削減。発注情報と社内ナレッジを入力すると、国土交通省の書式に沿ったWord原稿が約10分で出力される。
公共の土木工事を受注すると、まず「全体施工計画書」という分厚い書類を作ることになります。国土交通省の書式に沿って、工事の進め方をひととおり書き起こす。担当者が入札公告や特記仕様書を読み込み、社内に眠る過去の技術提案を探し、体裁を整えていく。着工前の、地味で重い仕事です。
大成建設では、この書類の下書きが約10分で出てくるようになりました。
導入前の風景
施工計画書づくりの難しさは、読む材料が文章だけではないところにあります。入札公告や仕様書といった文書に加えて、図面や現場写真も見なければ、工事の全体像はつかめません。
そして書き手には、社内に蓄積された技術ナレッジをどれだけ引き出せるかが問われます。過去に似た工事があったか、そのときどんな提案をしたか。ベテランなら思い出せることが、経験の浅い担当者には探しようがない。書類作成が属人的になりやすい構造でした。
変わった景色
同社が2025年11月に発表したのは、視覚言語モデル(VLM)を土台にしたマルチモーダル生成AIによる「全体施工計画書作成支援システム」です。
特徴は、文書と図面を同時に読むところにあります。入札公告・工事概要・特記仕様書といった発注情報と、社内に蓄積してきた技術提案などのナレッジを入力すると、AIが図面や写真の視覚情報と文章を並行して解析し、国土交通省の書式に沿ったWord形式の原稿を組み上げます。所要時間は約10分。従来と比べて作業時間は約85%減ったと同社は説明しています。
もうひとつ、この事例で見逃せない工夫があります。AIの出力のうち信頼性が低い箇所を自動で特定する技術を、あわせて開発している点です。生成された文書の中で「ここは怪しい」と機械が印をつけ、技術者がそこを重点的に確認してから仕上げる。もっともらしい嘘(ハルシネーション)を、運用の注意ではなく仕組みで捕まえにいっています。
なぜうまくいったか
一つ目は、書式が決まっている仕事を選んだことです。国土交通省の書式という動かせない型があるからこそ、AIの出力を評価でき、外れたときにすぐ分かります。自由度の高い文書より、様式の決まった文書の方がAIは効きます。
二つ目は、図面を読ませたことです。文章だけを扱うAIでは建設の書類は作れません。視覚と文章を同時に扱えるモデルを土台に選んだのは、業務の実態に技術を合わせた結果です。
三つ目は、社内の技術ナレッジを入力に含めたことです。汎用のAIに一般論を書かせるのではなく、自社が積み上げてきた提案や知見を材料として読ませる。だから出てくる原稿が「うちの会社の書き方」に近づきます。
四つ目は、間違いを前提に置いたことです。AIは間違えるという前提から出発し、間違いそうな箇所を機械が指し示す仕組みを最初から組み込んでいる。人が全文を疑って読み直すのではなく、疑うべき場所を教えてもらう形にしたことで、確認の負担そのものを減らしています。
戻ってきた時間
作業時間は約85%減。着工前の準備に取られていた時間が、現場の検討や技術提案そのものに回せるようになります。同社はこの文書生成の技術を社内に広げ、他の業務にも展開していく方針を示しています。
編集後記
第一景の鳥取のデイサービスと、この事例。介護施設と大手ゼネコンで、扱う書類も規模もまるで違います。それでも共通しているのは、現場が使ってきた書式をそのまま守ったことでした。介護の報告書も、国土交通省の様式も、変えずにそのまま出てくる。中身を作る仕組みが変わっても、出てくる紙が同じなら、現場は身構えずに済みます。
そして「AIの怪しい箇所に印をつける」という発想は、規模を問わず持ち帰れる考え方です。AIに完璧を求めるのではなく、どこを人が見るべきかを設計する。これができているかどうかが、使い続けられる仕組みとそうでないものを分けています。

