公開事例の分析
パナソニック コネクト — 「聞く」から「頼む」に変わった1万2千人の社内AI
国内約1万2千人に社内AIを開放し、1年目で18万6千時間を削減。シャドーAIを禁止でなく「安全な入口」で押さえ、使い方が「聞く」から「頼む」へ移って削減幅がもう一段伸びた公開事例の分析。
パナソニック コネクト株式会社

- 業種
- 電機・BtoBソリューション
- 規模
- 50名〜
- 使用AIツール
- OpenAI GPT(API連携)
- 業務領域
- 資料作成・法務・コンプライアンス・経理・請求
- 導入形態
- 自走
- 成果
- 導入1年目で年間約18万6千時間を削減。2025年度は前年の2.4倍に拡大し、全社の労働時間が3.4%減少。情報漏えい等の事故は16か月でゼロ。
朝、社員が「ConnectAI」と名付けられた社内の画面を開きます。取引先へ出す提案書のたたき台、経理の承認に必要な書類の下ごしらえ、下請法に触れていないかの確認。かつては人に聞くか、自分で調べるしかなかったことが、その場で片づいていきます。
パナソニック コネクトでは、この光景が約1万2千人の日常になりました。
導入前の風景
大きな会社ほど、答えは社内のどこかにあるのに、それを探すのに時間がかかります。過去の提案書、品質のルール、社内規定。どこに何があるか分かる人に聞くのが一番早い、という状態が続いていました。
もうひとつ、放っておけない問題がありました。ChatGPTのような便利な道具が世に出た以上、社員が個人の判断で業務の情報を入力してしまう可能性があります。いわゆるシャドーAIです。禁止しても使われるだけなら、会社として安全な入口を用意する方が現実的でした。
変わった景色
同社は2023年2月、OpenAIの大規模言語モデルを土台にした社内AIアシスタント「ConnectAI」を国内の全社員向けに公開しました。目的は3つ。業務の生産性を上げること、社員のAIスキルを底上げすること、そしてシャドーAIのリスクを抑えることです。
最初の1年で、社内からのアクセスは約139万7千回。1回あたりおよそ20分の時間短縮という社員自身の申告を積み上げると、年間で約18万6千時間が浮いた計算になりました。情報漏えいや権利侵害の事故は、16か月の運用でゼロと報告されています。
その後、AIに読ませる材料が広がっていきます。自社の品質に関するデータ630件・約1万1743ページ、公開しているWebページや過去のニュースリリース。「一般的なことを知っている道具」から「自社のことを知っている道具」へ、少しずつ性格が変わっていきました。
そして2025年度、使い方そのものが変わります。同社の説明によれば、社員の使い方は「聞く」から「頼む」へ移りました。経理の承認に出す書類の下ごしらえや、下請法に照らした確認といった定型の仕事を、AIが手順ごと引き受けるようになったのです。製品の仕様書なら30秒で草案が出てくるといいます。
なぜうまくいったか
一つ目は、禁止ではなく安全な入口を用意したことです。シャドーAIは「使うな」で消えません。会社が用意した場所の方が便利なら、社員は自然にそちらを使います。リスク対策と利便性を対立させなかったのが効いています。
二つ目は、効果を社員自身に申告させたことです。1回使うごとに「何分浮いたか」を積み上げる。厳密な計測ではありませんが、続けられて、社内で共有できて、翌年と比べられます。測れない改善は続かないという当たり前を、軽い方法で成立させました。
三つ目は、社内の知識を後から足していったことです。最初から完璧な社内データベースを作ろうとせず、まず動かし、品質データや自社サイトの情報を順に読ませていく。AIそのものより、AIに何を読ませるかで実力が決まる、という順番を守っています。
四つ目は、「聞く」の次に「頼む」へ進んだことです。質問に答えるだけでは、時間の節約はいずれ頭打ちになります。承認書類の準備や法令チェックのように、手順のある仕事をまるごと渡す段階に入ったことで、削減幅がもう一段伸びました。
戻ってきた時間
2025年度、AIによって浮いた時間は前年の2.4倍に伸びたと同社は説明しています。日本経済新聞の報道によれば、同社の労働時間は2025年に3.4%減り、2030年には1割減を目標に掲げています。
この数字は、人を減らすためのものではありません。同社のAI・データプラットフォーム部門の責任者は、AIが人の能力を置き換えるのではなく「人が自分の力を最大限に発揮するために使ってほしい」と語っています。
編集後記
第一景の鳥取のデイサービスは50人の職場、こちらは1万2千人の会社です。規模はまるで違いますが、やっていることは驚くほど似ています。まず動くものを入れる。効果を数える。現場の材料を後から足す。人が最後に確認する。
違うのは、大企業は「シャドーAIを抑える」という守りの動機からも始められる点でしょうか。中小企業でも、社員が個人のアカウントで業務情報を扱っている状況は珍しくありません。安全な入口を先に作るという発想は、規模を問わず使えます。
出典: パナソニック コネクト プレスリリース(2024年6月)、MONOist(2025年7月)、日本経済新聞(2026年7月)

