話者分離が効かない理由|対面会議で誰が話したかを分ける
会議の文字起こしを見て、いちばんがっかりするのがここだと思います。文章としては読めるのに、誰が言ったのかが分からない。あるいは、話者のラベルは付いているのに中身が入れ替わっている。
結論から言うと、「誰が話したか分からない」という現象は2つのまったく別の問題が混ざっています。片方は設定では直りません。もう片方は録音の取り方で直ります。この2つを分けないまま高機能なサービスを探しても、たいてい解決しません。
私はクライアントとの打ち合わせを録音して文字起こしする運用を続けていますが、この論点では実際に失敗しています。この記事では、原因の切り分けと、現場で実際に効いた直し方をお伝えします。
「誰が話したか分からない」は、2つの別々の問題
まず用語を整理します。話者分離と呼ばれているのは、ひとつの音声の中から「ここからここまではAさん、次はBさん」と区切っていく処理のことです。誰であるか(氏名)まで当てるのではなく、話し手が切り替わったことを検出して番号を振るのが基本です。
そのうえで、うまくいかない場面は次の2つに分かれます。
- そもそも音声が1本にまとまっていない場合:Web会議のように、参加している端末ごとに音が分かれている。この場合、サービスは音を分析するのではなく、端末の情報で発言者を決めている
- 音声が1本にまとまっている場合:会議室のマイクで録った1本の音声から、話し手の切り替わりを推定している
前者の失敗は設定では直りません。後者の失敗は録音の取り方で改善します。 順に見ていきます。

原因1:Web会議は「参加している端末」で話者を判定している
ZoomやTeams、Google Meetといったサービスの文字起こしは、会議に参加しているアカウント(端末)を単位にして発言者を決めています。マイクの音を分析して「声が変わった」と判断しているわけではありません。
この仕組みは、全員が別々のパソコンから参加している会議では非常によく働きます。誰の端末から音が出たかは確実に分かるので、発言者名がきれいに並びます。
会議室から5人で入ると、5人が1人になる
問題が起きるのはここからです。本社の会議室に5人が集まり、そこに置いた1台のパソコンからWeb会議に参加する。 このとき、会議室にいる5人の発言はすべて「会議室のパソコンのアカウント」から出た音として扱われます。
結果として、5人分の発言がひとつの名前でまとめて記録されます。文字起こし自体は取れているので気づきにくいのですが、議事録にしたときに「誰が何を引き受けたのか」が残りません。
本社は集まって、支店は各自のパソコンから参加する。この形の会議がいちばん影響を受けます。支店の人の発言はきれいに名前が付き、本社の人の発言だけが一塊になるので、読んだときの違和感が大きくなります。
これは設定では直らない
ここが重要なところです。会議室から複数人が1台で参加している限り、どの設定をいじっても発言者は分かれません。 仕組みとしてそうなっているためです。
「もっと良いサービスに変えれば直るのでは」と考えたくなりますが、Web会議の標準機能を使っている限り、乗り換えても同じことが起きます。直すなら、録音の取り方を変えるか、運用で補うかのどちらかになります。

原因2:1本の音声から推定するタイプが崩れるとき
もう一方は、会議室のマイクやポケット型の録音機で録った1本の音声から、話し手の切り替わりを推定するタイプです。国内の文字起こしサービスやAI録音機の多くはこちらに当たります。
こちらは会議室で複数人が話しても分けようとしてくれます。ただし、次の条件で精度が落ちます。
- 声質が近い:同世代・同性の話者が続くと、切り替わりを見落としやすくなります
- 同時に話す:相槌や発言の被りが多い会議は苦手です。「複数人が同時に話すシーンが多く、音声が混在している」というのは、実際によく挙がる相談です
- 席が遠い:マイクから遠い席の声は小さく、こもります。声の特徴が取り出しにくくなります
- 部屋が響く:天井や壁の反響が大きいと、同じ声が二重に入って判定が乱れます
置き場所を変えるだけで、結果が変わる
この中でいちばん手を入れやすいのが席との距離です。私自身、ヒアリングで録音機を使っていて、ここで失敗しました。
録音機を首から下げて記録したときと、机の上の話し手寄りの中央に置いたときとで、結果がまったく違いました。 首から下げた状態では、遠い席の話者の精度が3〜5割まで落ちています。自分の声はよく入るのに、相手の声が拾えていないという状態です。
それ以来、録音機は必ず卓上の、話し手に寄せた中央に置くようにしています。機材を買い替えるより先に、置き方を直すほうが効きます。 費用はかかりませんし、次の会議から試せます。
部屋が響いているかは、手を叩けば分かる
反響は見落とされがちですが、判定は簡単です。誰もいない会議室で一度手を叩いてみてください。 パンと鳴って余韻が残る部屋は響いています。会議室の壁が硬い素材で、床がタイルやフローリングだと起きやすくなります。
響く部屋では、同じ声がわずかに遅れてもう一度マイクに入ります。人の耳は自然に補正しますが、機械は補正しません。結果として、1人の発言が途中で別の話者に切り替わったように判定されることがあります。
対策は大がかりなものでなくて構いません。カーテンを閉める、椅子に布を掛ける、ホワイトボードの前を空けないといった程度でも変わります。録音機を話し手に近づけることが、ここでも効きます。 近い音が大きく入れば、反響の影響は相対的に小さくなります。
直し方1:会議室側の録音を、Web会議に頼らず別に取る
拠点が混ざる会議で、どうしても発言者を分けたい場合の方法です。
Web会議の文字起こしは支店側の記録として使い、会議室側は会議室のマイクで別に録音して、そちらを話者分離に対応したサービスで処理します。あとで2つを突き合わせる形です。
正直に言うと、手間は増えます。2本の記録を扱うことになりますし、時刻を合わせる作業も出ます。発言者を厳密に残す必要が本当にあるのかを確かめてから選ぶ方法です。
直し方2:発言の前に名前を言う運用にする
いちばん安く、いちばん確実な方法がこれです。会議室から発言する人が、話し始めに自分の名前を言う。それだけです。
「営業部の田中です。この件ですが」と言えば、文字起こしの本文の中に名前が残ります。話者のラベルが分かれていなくても、本文を読めば誰の発言か分かる状態になります。
ばかばかしく聞こえるかもしれませんが、拠点が混ざる会議ではもともと「誰が話しているか分からない」という問題が人間側にも起きています。名乗る運用は、議事録のためだけでなく会議そのものの改善にもなります。
定着させるコツは、司会が最初に一言添えることです。「記録を取っているので、発言の前にお名前をお願いします」と毎回言う。3回も続ければ習慣になります。
司会が言う一言を、決めておく
運用を定着させるとき、毎回言うことを1文に固定しておくと楽です。私が勧めているのは次のような形です。
「本日は記録を取っています。ご発言の前に、お名前をお願いします。」
これを会議の開始時に司会が読む。アドリブにすると言ったり言わなかったりするので、議事録の手順書の1行目に書いておきます。
それでも名乗り忘れは出ます。そのときは司会が「○○さんですね」と受けるだけで記録に残ります。参加者全員に完璧を求めず、司会が拾う形にしておくと続きます。
直し方3:そもそも話者を分ける必要があるかを問い直す
ここがいちばんお伝えしたいところです。
議事録に本当に必要なのは、全発言の話者ラベルではなく、決まったことと宿題の担当者です。 この2つが分かれば、たいていの会議は成立します。
逐語の記録に誰が言ったかを全部つけようとすると、技術的にも運用的にも一気に難しくなります。一方で、議事録の型に「決定事項」「宿題」「担当」「期限」の欄を用意して、確認する人がそこだけ埋める形にすれば、話者分離の精度は大きな問題ではなくなります。
私が相談を受けたときも、まずこれを確認します。「発言録が要るのか、決定と宿題が要るのか」。 後者であれば、話者分離に高いお金を払う必要はありません。
逆に、取締役会や監査のように発言者を記録に残す義務がある会議であれば、直し方1と2を組み合わせて確実に取ります。ここは目的で決まる話です。
会議室での座り方と、機材の置き方
ここまでの話をまとめると、会議室の作り方は次のようになります。特別なことはしていません。
録音機は机の中央、やや話し手寄りに
長机であれば中央です。片側に発言の多い人が固まっているなら、そちら側に寄せます。首から下げない、胸ポケットに入れない、書類の下に置かない。 この3つを避けるだけで、かなり変わります。
人数が増えたら、機材を増やすより席を詰める
13人を超えるような会議では、マイクを分散して置く構成が要ります。ただしその前に、席を詰めて全員がマイクから同じくらいの距離に入るようにできないかを考えてみてください。机をコの字にするだけで届くことがあります。
広い部屋で端に人が座っている状態は、機材で解決しようとすると費用がかかります。座り方で解ける範囲は、座り方で解くほうが安いです。
会議室のパソコンは、マイクから離す
Web会議を併用する場合、会議室のパソコンのスピーカーとマイクが近すぎると音が回ります。スピーカーの音をマイクが拾い、それがまた相手に返る状態です。話者の判定以前に、会話そのものが成立しなくなります。
会議用のスピーカーマイクは、この回り込みを抑える処理が入っている製品が多く、その点でもパソコン内蔵のマイクより有利です。
その前に、録音そのものが失敗していないか
話者分離の話をする前に、確かめておきたいことがあります。そもそも音が入っていないケースです。分離以前の問題なのですが、意外と多いので先に潰しておきます。
ミュートのまま話している
Web会議を併用していると起きます。会議室のパソコンがミュートのままだと、会議室の発言は相手に届かず、記録にも残りません。その場では相手の反応で気づきますが、記録を見るまで気づかないこともあります。
冒頭と末尾が欠けている
録音の開始が遅れて、会議の頭が入っていない。あるいは終了操作が早くて、最後の詰めが切れている。会議の冒頭と末尾は、決定事項が出やすい場所です。 ここが欠けると議事録として痛いことになります。
私も一度、録音の中盤が欠落していたことがあります。機器の側の問題でしたが、そのときは手元のメモで補いました。それ以来、重要な会議では簡単なメモを併用しています。 録音は失敗するものだという前提を持っておくと、事故が事故で済みます。
対策は、開始時の30秒
手順書の1行目に「録音の開始を確認する」と書き、会議の開始時に実際に録れているかを画面で見る。それだけで大半は防げます。
もう一つ、会議が終わったらその場で保存されたかを確認します。あとで探して見つからない、という事態を避けられます。
話者分離に対応しているサービスの見分け方
選ぶときに見るのは、次の3点です。
- 1本の音声ファイルをアップロードして分離できるか:会議室のマイクで録った音を後から処理したい場合、これができないと使えません
- 日本語で対応しているか:話者のラベル付けは対応言語が限られる場合があります。日本語が対象に含まれるかを公式の記述で確認してください
- ラベルを後から手で直せるか:分離は完璧にはなりません。「話者1」を「田中さん」に置き換える編集ができるかどうかで、実際の手間がかなり変わります
ポケット型のAI録音機や国内の文字起こしサービスの多くは対応しています。一方、Web会議の標準機能は前述のとおり端末単位の判定なので、会議室での複数人参加には対応できません。ここを混同したまま比較すると、選び方を間違えます。
無料で試してから決める
話者分離の実力は、自社の会議で試さないと分かりません。声質・人数・部屋の響きで結果が変わるためです。
多くのサービスに無料の試用枠があります。実際の会議を1回録って、そのまま処理してみてください。 カタログの数字を読み比べるより、はるかに早く判断できます。
自社の会議で1回試す手順
読んで判断するより、1回試すほうが早いです。次の3ステップで、自社の会議がどの状態にあるかが分かります。
ステップ1:いつもの会議を、いつもの方法で録る
まず現状を記録します。この回は何も改善しないでください。 比較の基準が要るためです。文字起こしまで通して、話者がどう分かれているかを見ます。
見るのは3点です。会議室にいる人が1人にまとまっていないか。ラベルが途中で入れ替わっていないか。遠い席の発言が抜けていないか。
ステップ2:置き場所だけ直して、もう1回録る
次の同じ会議で、録音機を机の中央の話し手寄りに置き直します。 ほかは何も変えません。これで前回と比べます。
ここで明確に良くなるなら、原因は置き場所でした。費用0円で解決です。変わらないなら、機材の系統か、Web会議の端末単位の判定が原因です。
ステップ3:名乗る運用を足して、もう1回録る
3回目に、発言前の名乗りを足します。ここまでやって読める議事録にならなければ、はじめて機材やサービスの検討に進みます。
順番が逆になっている会社が多いと感じます。先に高機能なサービスを契約して、それでも分からないので困っている、という相談がよくあります。0円でできることを先に試したほうが、結果的に早く着きます。
議事録の型で受ける
話者分離の精度をどこまで上げても、最後に人が確認する工程は残ります。だからこそ、確認しやすい型を先に作っておくほうが全体としては速くなります。
- 決定事項・宿題・担当・期限の4つが埋まる欄を用意する
- AIが埋める欄と、人が確認する欄を分けておく
- 確認する人を1人決める。全員で見ると誰も見ません
- 担当者名は、話者ラベルではなく本文から拾って人が入れると割り切る
この形にしておくと、話者分離が多少崩れていても議事録として使えます。技術で完璧を目指すより、運用で受けるほうが安上がりです。
よくある質問
話者分離と話者識別は違うものですか
実務上は、話し手が切り替わったことを検出して番号を振るのが基本の動きだと考えてください。「話者1」「話者2」という形で出てくるのはそのためです。それが誰であるかは、あとから人が対応づけることになります。
会議室にいる全員にマイクを配れば分かれますか
Web会議の場合、全員が自分のアカウントで参加すれば分かれます。ただし同じ部屋で複数の端末が音を出すと、音が回ってハウリングが起きます。マイクとスピーカーの扱いに慣れが要るので、会議室に1台のマイクを置いて名乗る運用のほうが現実的なことが多いです。
ラベルが入れ替わってしまいます
声質が近い話者が続いたときに起きやすい現象です。録音機の位置を話し手寄りに直すことと、発言前に名乗る運用で、かなり減ります。それでも残る分は、あとから手で直す前提にしてください。完全に自動で正確になるものではありません。
相槌まで話者として拾われて読みにくいです
「はい」「なるほど」といった短い発話が独立した発言として並ぶと、確かに読みにくくなります。要約の段階で落とす設定がある場合はそれを使い、無い場合は議事録の型に流し込む段階で捨てる形にします。全文をそのまま配らないことが前提です。
オンラインだけの会議なら問題ないですか
全員が別々のパソコンから参加していれば、発言者はきれいに分かれます。この形がいちばん楽です。 拠点が混ざるようになった時点で、この記事の話が効いてきます。
ただし、1人が会議室から複数人を代表して入る形になった瞬間に同じ問題が起きます。「今日はたまたま会議室に集まった」という日ほど、記録が崩れます。
あとから話者を直す作業は、どれくらいかかりますか
会議の長さと話者の数によります。60分・5人程度で、ラベルの付け替えと明らかな誤りの修正に15分から30分といったところです。この時間が毎回かかるなら、置き場所と名乗る運用を先に直したほうが確実に安くつきます。
結局、いくらくらいかかりますか
実費でかかるのは、会議室のマイクが1万円から5万円程度、文字起こしのサービス利用料が月に数千円からです。直し方2(名乗る運用)と置き場所の見直しは0円で、効果はいちばん大きいところです。 まずそこから試してください。
費用をかけずにできることから
話者分離の相談を受けたとき、私が最初に勧めるのは機材でもサービスでもありません。順番があります。
1. 置き場所を直す(0円)
録音機を机の中央、話し手に寄せた位置に置く。首から下げない。書類の下に置かない。これだけで結果が変わるなら、ここで終わりです。
2. 名乗る運用を足す(0円)
司会が会議の最初に「ご発言の前にお名前をお願いします」と言う。話者ラベルが分かれていなくても、本文を読めば誰の発言か分かる状態になります。
3. 議事録の型で受ける(0円)
決定事項・宿題・担当・期限の4つが埋まる形にして、担当者名は本文から人が拾う。全発言の話者ラベルを求めない、と決めるだけです。
4. それでも足りなければ、機材を足す
ここまで試して読める議事録にならない場合に、はじめて会議室のマイクや話者分離に対応したサービスを検討します。順番を守ると、必要のない出費が減ります。
実際、1から3までで解決する会社は少なくありません。先に高機能なサービスを契約してから困っている、という相談のほうが多いというのが正直なところです。

会議の形・録音の環境・どこまで自動にするかを、全体として整理した記事もあります。
まとめ
- 「誰が話したか分からない」は2つの別問題。端末単位で判定している場合と、1本の音声から推定している場合
- Web会議の標準機能は端末単位。会議室から複数人が1台で参加すると、全員が1人として記録される。設定では直らない
- 1本の音声から推定するタイプは、声質・同時発話・距離・反響で崩れる
- 置き場所の見直しがいちばん効く。首から下げると遠い席の精度が3〜5割まで落ちた
- 拠点が混ざる会議は、会議室側を別に録るか名乗る運用で補う
- そもそも必要なのは全発言の話者ラベルではなく、決まったことと宿題の担当であることが多い
- サービスを選ぶときは、音声ファイルの分離・日本語対応・ラベルの手直しの3点を見る
- 完璧を技術で目指すより、議事録の型で受けるほうが安上がり
会議の形ごとにどう組めばよいかは、こちらで整理しています。
なお、各サービスの仕様・料金・対応言語は変更されます。導入前には必ず最新の公式情報で確認してください。
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