Date
2026/05/24
Category
Hermes Agent
Title
Hermes Inc. — Telegramで動く仮想スタートアップ|@brucexu_eth のハッカソン事例
「もし会社の経営判断を、複数のAIエージェントだけで完結できたらどうなるか」——その問いをそのまま試したハッカソン作品があります。X上の開発者 @brucexu_eth が2026年4月27日に発表した Hermes Inc. は、Hermes Agent を使ってTelegram上で複数の役職エージェントが自律的に意思決定する「仮想スタートアップ・シミュレーション」です。本記事では、株式会社Fyveが法人視点でこの事例を読み解き、エンタメ寄りの実験プロジェクトを実務にどこまで転用できるかを整理します。
まず3点で整理します。
Hermes Inc. は「実在しない会社」をシミュレートします。CEO・CTO・CFO といった複数の役職を、それぞれ独立したエージェントとして立ち上げ、Telegramの共通チャットを「会議室」に見立てて議論させる構成です。人間は通常その議論を観戦するだけで、結論まで自動的に到達します。
本人投稿の段階では具体的な意思決定例として、新規プロダクトの方向性議論、予算配分の調整、リリーススケジュールの折衝などが挙げられています。実在のスタートアップで行われている経営会議の「型」を、AI同士で再現したと言い換えても良いです。

Hermes Inc. の構造は、Hermes Agent が標準で持っている3つの機能を組み合わせたシンプルな設計です。
1つ目はメッセージング統合です。 Hermes Agent は Telegram・Discord・Slack・WhatsApp など20以上のプラットフォームに公式接続でき、Telegramのグループチャットをそのまま「エージェント間の共有空間」として使えます。Hermes Inc. はこのTelegramチャットを各役職エージェントが投稿・閲覧する共通ハブにしています。
2つ目はサブエージェント機構です。 Hermes Agent はバージョン v0.11.0 以降、サブエージェントの再帰呼び出しが無制限化されており、親エージェントから役職ごとの子エージェントを並列起動できます。CEO・CTO・CFO・CMO といった役職プロンプトを子エージェント単位で割り当てれば、それぞれが独立の文脈で発言する「擬似的な役員会」が成立します。
3つ目は3層メモリです。 短期・中期・永続のメモリ層を持っているため、過去の会議で決まった方針を踏まえて次の議論ができます。「先週の決定」「先月の予算枠」を引きずったまま議論を続けられる点が、単なるチャットボットの寄せ集めとの決定的な差です。
意思決定そのものの流れは、おおよそ次のような5段階に分けられます。

Hackathonプロジェクトという性質上、Hermes Inc. の本体コードは公開リポジトリ規模ではなく、本人ポストとデモ動画レベルの公開です。ただし上記の構造は、Hermes Agent 公式ドキュメントの「メッセージング統合」「サブエージェント」「永続メモリ」の組み合わせで誰でも再現可能な範囲に収まっています。
Hermes Inc. を見たとき、最初の印象は「面白いが業務には使えない実験」だと思います。実在しない会社を回しても利益は出ません。私たちもその第一印象自体は否定しません。
ただし、ここから実務に持ち帰るべきシグナルが3つあると考えます。
第一に、「役職分業」がエージェント設計の有効パターンとして再確認された点です。 単一の万能エージェントに全部任せるより、視点を持つ複数エージェントを並べて議論させた方が出力の質が上がる、というのはマルチエージェント研究で繰り返し報告されています。Hermes Inc. はそれをエンタメ仕立てで可視化したに過ぎず、設計思想そのものは社内会議の自動化、提案書の多角検討、商品コンセプトのレビューなど、業務向けに直接転用できます。
第二に、Telegram のような汎用チャットを「エージェント同士のミーティングルーム」として使う設計は、可観測性の高さで優れています。 議論の全過程が人間にも読める形で残るため、AI同士のブラックボックス化を避けながら自律性を上げられます。社内Slackに同じ仕組みを置けば、経営層がエージェントの議論を後追いレビューできる体制になります。
第三に、これは「シミュレーション環境」としての価値があります。 実在しない会社の会議だからこそ、人間が責任を負わずに「経営判断のリハーサル」を試せます。本物の意思決定に組み込む前に、エージェントの議論パターンや判断のクセを観察する場として、Hermes Inc. の構成はそのまま実用転用できます。
「面白いが使えない」と「面白いから使える」を分ける判断軸は何か。私たちが中小企業の現場で見ている範囲では、次の4点で見極めます。
Hermes Inc. のような自律議論をそのまま本番投入すると、最大のリスクは「AIが勝手に決めた結論で会社が動く」ことです。実務で使うなら、エージェントの出力は「決定」ではなく「示唆」として扱う層を必ず挟みます。最終承認は人間、エージェントは選択肢を3案出して根拠を提示する、という運用に揃えれば事故は防げます。
「CEOらしく振る舞え」と書くだけでは出力は薄くなります。実在企業の決算資料・経営計画書・業界統計を読み込ませて、その役職が実際に意識する KPI・制約・優先順位までプロンプトに埋め込む必要があります。Hermes Agent のスキルシステムを使えば、役職ごとに参照する一次資料群をスキル単位で切り出せます。
マルチエージェント議論で最も詰まりやすいのが「終わらない」問題です。CEO案にCFOが反論し、CTOが折衷案を出し、CMOが新しい論点を投げる——を放置するとAPI料金だけが膨らみます。Hermes Inc. のような構成を業務に乗せるなら、議論ラリー上限・タイムアウト・コスト上限の3点セットを最初に設定します。
議事録を残すだけでは意味がなく、次回の議論で参照させて初めて「学習する組織」になります。Hermes Agent の3層メモリに会議ログを書き込み、次回のトリガー時に永続記憶として読み込ませる設計にすることで、「先週の決定を踏まえて今週議論する」という連続性が生まれます。
この4軸を満たす形で組み直せば、Hermes Inc. の発想は「経営層の壁打ち相手」「新規企画のコンセプトレビュー」「提案書の社内多角検証」といった具体的な業務に落とせます。
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