Date
2026/05/24
Category
Hermes Agent
Title
autonovel事例|79,456語の小説を自律生成
Nous Researchが公開した「Hermes Agent公式リファレンス実装」、autonovel。Hermes Agentに小説を完全自律で書かせるためのコード一式で、実演として『The Second Son of the House of Bells』(79,456語・全19章)が世界構築から音声書化・公開まで全自動で生成・配信されました。株式会社Fyveでは、この公式実装を「Hermes Agentの能力を最大限引き出した参照点」として読み解きます。本記事では実装の8工程パイプラインを分解し、サブエージェントとスキルがどう連携しているかを推定構造込みで解説します。
autonovel を1段落で要約すると次のとおりです。
autonovelの最大の意義は、Hermes Agentというランタイムが「単発タスクの自動化」ではなく「長尺・多工程パイプラインの最初から最後まで」を実運用レベルで回せることを、公式が一次資料で証明した点にあります。世界構築・章執筆・敵対的編集・上位モデルレビュー・LaTeX組版・カバーアート生成・音声書化・ランディング公開まで、人間が触ったのは「テーマ指示」と「最終公開のゴーサイン」だけです。
autonovelのパイプラインは大きく8工程に分かれています。Hermes Agentのサブエージェント機構とスキルシステムが、それぞれの工程を担う設計です。
工程 | 役割 | 使われる技術 |
|---|---|---|
1. 世界構築 | テーマ・舞台・登場人物・年表を設計 | Hermes Agent 永続メモリ |
2. 章執筆 | 19章を順次ドラフト | 執筆用LLM + 3層メモリ |
3. adversarial編集 | 批評家エージェントが攻撃→書き手が改稿 | サブエージェント再帰 |
4. Opusレビュー | 上位モデルで最終品質チェック | Claude Opus級モデル |
5. LaTeX組版 | 書籍体裁PDFへの自動組版 | LaTeX + Hermes Agentのファイル操作ツール |
6. カバーアート生成 | 装丁画像の自動生成 | fal.ai経由の画像生成モデル |
7. 音声書化 | 全19章のナレーション生成 | ElevenLabs API |
8. ランディング公開 | 読者導線つき公式ページ展開 | 静的サイト + デプロイツール |
この8工程をHermes Agentが「1つの目的」のもとに連鎖実行している、というのが構造的なポイントです。各工程は独立したスキルとして実装されており、Hermes Agentのオーケストレーション層がスキルの呼び出し順・依存関係・失敗時のリトライを管理します。

最初の工程は、章執筆に先立って「世界の設計図」を完全に固めるフェーズです。テーマ・舞台設定・主要登場人物・年表・主要なプロット転換点を、世界構築スキルが長文のマークダウン設計書として書き出します。設計書は、世界設定・人物設定・章ごとのあらすじを別ファイルに分け、後工程から参照できる状態でリポジトリに格納されます。
長編生成で最も多い失敗は「途中で世界観や人物像がブレる」現象です。autonovelが先に世界構築を完了させているのは、ブレ防止のためのコンテキスト固定処理として読めます。設計書はHermes Agentの3層メモリのうち「永続メモリ」に格納され、19章すべての生成プロセスで参照され続けます。
世界設計が固まったら、章執筆スキルが章ごとのドラフトを生成します。各章生成時のプロンプトには「世界設計書」と「前章までの要約」が含まれ、これによりモデル側のコンテキスト上限(Hermes Agentの必須要件は64,000トークン以上)を超えないまま、長期一貫性を確保します。
19章を順に書く工程は、人間が小説家として執筆する作業を、エージェントの時分割実行で再現したものです。1章あたり数千〜1万語程度の規模なので、モデル単発の出力に収まる粒度に切り出しているのが工夫点です。
autonovelの特徴的な工程が、この「敵対的編集」です。書き手エージェントが章を書くと、別プロセスの「批評家エージェント」が立ち上がり、その章を意図的に攻撃します。プロットの矛盾・キャラクター動機の弱さ・文章のテンポなどを指摘し、書き手が応答して章を改稿する、というラリーが回ります。
ここでHermes Agentの「サブエージェント再帰無制限(v0.11.0で開放)」が効きます。批評家を独立サブエージェントとして起動することで、書き手のコンテキストと批評家のコンテキストが物理的に分離され、批評の客観性が落ちにくくなります。同一コンテキスト内で「批評してください」とプロンプトするだけのケースとは、構造的に挙動が違います。
adversarial編集が一段落したあと、上位モデル(Claude Opus級)による全体レビューが走ります。ここでは細かい修正というより「全体として商業出版に耐える品質か」を判定し、必要に応じて章全体の書き直し指示を返します。
Hermes Agentは25以上のLLMプロバイダに対応しているため、執筆・批評・最終レビューでそれぞれ異なるモデルを使い分けられます。autonovelの公開時点では、執筆と批評にコスト効率の良い中位モデルを使い、最終レビューにのみ高性能モデルを当てる構成が現実的な選択肢です。
本文が確定したら、書籍体裁への仕上げに入ります。autonovelはLaTeXテンプレートを使って書籍PDFを生成します。フォント設定・章扉・目次・ノンブル(ページ番号)の処理を、Hermes Agentが直接LaTeXファイルを編集して整えます。Hermes Agentに組み込まれた70+のビルトインツール(ファイル操作・ターミナル実行)が、ここで本領を発揮します。
組版品質は商業書籍の体裁レベルに揃っており、PDF出力後はそのままKindle以外の電子書籍プラットフォームに入稿できる完成度です。
装丁画像は、fal.ai経由の画像生成モデルを使って自動生成されます。タイトル・世界観・主要キャラクターの設計書を入力にして、書籍カバー専用のレイアウトで装丁画像を作成します。fal.aiはHermes Agentからの外部API呼び出し(MCPまたは直接HTTP)で叩く構成です。
音声書(オーディオブック)はElevenLabsの音声合成APIを使い、全19章ぶんのナレーションを生成します。章ごとに音声ファイルを分割出力し、後段でランディング上の試聴UIに組み込まれます。1冊ぶんの音声生成にかかる時間・コストは章数とトークン量に比例しますが、人間のナレーター手配と比べれば桁違いに低コスト・短納期です。
最後の工程は、成果物を読者に届けるためのランディングページ構築です。autonovelでは nousresearch.com/bells として実演公開されており、本文プレビュー・PDFダウンロード・音声書試聴・購入導線が並ぶ完成形になっています。Hermes Agentがファイル生成からデプロイまでを通して扱える設計だからこそ、公開工程まで含めて自動化できています。
autonovelの真価は、個別の工程よりも「8工程を通して回している骨組み」にあります。Hermes Agentがどんな構造でこれを成立させているか、推定込みで解説します。
autonovelの各工程は、それぞれが独立したスキルとして実装されています。Hermes Agentの「スキル」は、目的・入力・出力・制約条件が定義された再利用可能なタスク単位で、agentskills.io規格にも対応します。世界構築スキル・章執筆スキル・批評スキル・組版スキルがそれぞれ独立して存在し、Hermes Agentのオーケストレーション層が依存関係を見ながら呼び出します。
つまり「autonovelとは何か」を技術的に言い直すと、Nous Researchが定義した小説生成用スキル群の集合であり、Hermes Agent本体に追加で読み込ませて使うアドオン構造です。Hermes Agent本体(GitHub Star 161k)をインストールしたうえで、autonovelをスキルとして組み込む流れになります。
adversarial編集の「批評家」がサブエージェントで実装されていることはすでに触れましたが、autonovelは他の工程でもサブエージェントを多用していると推定できます。たとえば章執筆で「主要キャラ視点のサブエージェント」を立てて発話シーンの整合性を担保したり、組版工程で「LaTeXコンパイル監視用のサブエージェント」を別途立ててエラー検知に専念させる、といった使い分けです。
Hermes Agent v0.11.0で開放されたサブエージェント再帰無制限により、こうした多層構造が技術的に可能になりました。autonovelはこの機能の能力を最大限引き出すリファレンス実装として設計されている、と読むのが自然です。

autonovelが79,456語を破綻なく書ききれた背景には、Hermes Agentの3層メモリ(短期・中期・永続)があります。世界設計書は永続メモリ、章ごとのコンテキストは中期メモリ、章内の現在シーン情報は短期メモリに格納されると推定されます。
この階層構造により、章執筆の各ステップで「いま書いている章のシーン情報」だけがLLMのコンテキストウィンドウに入り、過去章の詳細は要約された形で参照される設計が成立します。人間が長編小説を書く際に「設定資料」「あらすじノート」「執筆中の章原稿」を別ファイルで管理するのと、構造的にほぼ同じです。
カバーアート生成(fal.ai)と音声書化(ElevenLabs)は、Hermes AgentのMCP統合(Model Context Protocol)を通じて呼び出されます。MCPはAnthropicが提唱した外部ツール接続の標準規格で、Hermes Agentはこれをネイティブサポートしています。新規外部APIの追加が、設定ファイルを足すだけで済む構造です。
私たちはこの公式リファレンス実装を、3つの観点で評価しています。
第一に、autonovelは「Hermes Agentで何ができるか」の最大射程を示した教材です。 通常の業務自動化案件では8工程パイプラインを一度に組むことは稀ですが、autonovelを読むことで「ここまでやれる」という上限値が見えます。中小企業の業務自動化を提案するときも、autonovelレベルの設計を一度通っておくと、設計の余裕度が大きく変わります。
第二に、サブエージェント機構の威力が一次資料として証明されました。 批評家を独立プロセスとして起動する設計は、長文生成以外の業務(コードレビュー・契約書チェック・社内文書監査など)にもそのまま転用できます。私たちがクライアントに「AI同士で相互チェックする構造を組みましょう」と提案するときの根拠資料として、autonovelは一級のリファレンスです。
第三に、公式実装ゆえに「Nous Researchがどう使ってほしいか」の意思が読めます。 単純な業務自動化のリファレンスではなく、長尺・多工程・外部API統合・常駐サブエージェントというHermes Agentの特長を全部使い切る構成を、わざわざ実演として選んでいる点に、開発元の方向性が現れています。
autonovelのパイプラインそのものを業務に転用するなら、私たちは次の3層に分けて考えます。
autonovelを「日本語小説への転用」観点で深掘りした記事はこちらです。
Hermes Agent本体の全体像とサブエージェント機能の詳細はこちらです。
長期運用の事例(Day 297・$100K自動化)から逆算した実務設計はこちらです。

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