Claude Code /cd|作業ディレクトリ移動の新コマンド
「Claude Codeで別の案件のフォルダに移りたいだけなのに、いったん閉じてまた開き直し、ゼロから状況を説明し直している」——複数のプロジェクトを行き来する人なら、誰もが一度はこの面倒を感じたことがあるはずです。
結論から言うと、2026年6月のアップデートで追加された/cd コマンドを使えば、セッションを終了せずに作業ディレクトリ(いま作業の対象にしているフォルダ)を移動できます。しかも、それまでに積み上げた文脈——専門的にはプロンプトキャッシュ——を壊さずに、です。
株式会社Fyveは、複数の案件を1日のうちに何度も横断しながらAIで業務を回しています。この記事では、エンジニアでなくても分かる言葉で、/cd という小さなコマンドが働き方にどう効くのかを解説します。
そもそも /cd コマンドとは?作業ディレクトリを移動する新機能
Claude Codeは、ターミナル(黒い画面)から動かすAIアシスタントです。起動すると「いま、どのフォルダを見て作業しているか」がひとつ決まります。これを作業ディレクトリと呼びます。
作業ディレクトリは、AIにとっての「机の上」のようなものです。そのフォルダの中にあるファイルや設定を前提に、AIは読み書きや調べものをします。A社の案件フォルダを開いていれば、AIはA社の資料を見て動く、というわけです。
これまで、別のフォルダ(たとえばB社の案件)に切り替えたいときは、いったんClaude Codeを終了して、移りたいフォルダで起動し直す必要がありました。/cd コマンドは、この「閉じて開き直す」をなくし、セッションを動かしたまま作業ディレクトリだけを移動できるようにする新機能です。バージョン2.1.169(2026年6月)で追加されました。
もうひとつ実務で見逃せないのが、対応範囲の広さです。/cd は、Amazon Bedrock・Google Vertex・Microsoft Foundry といった主要なクラウド経由の利用や、手元のPCを離れて動くリモート実行でも使えます。会社のルールで特定のクラウド基盤を使っている場合でも、同じ操作で恩恵を受けられます。
使い方はシンプル:コマンドを1つ打つだけ
操作そのものは難しくありません。Claude Codeとの対話の途中で「/cd」と打ち、続けて移りたいフォルダの場所を指定するだけです。スラッシュ(/)から始まる指示はClaude Code コマンドと呼ばれ、AIへのお願いとは別に、Claude Code本体に対する操作命令として扱われます。
つまり、英語のコードを書く必要も、ターミナルの専門知識も要りません。「この案件のフォルダに移って」という意図を、ひとつの短い指示で伝えられる——非エンジニアにとっては、この手軽さが何よりの利点です。

キモは「プロンプトキャッシュを壊さない」こと
/cd の本当の価値は、フォルダ移動そのものより「プロンプトキャッシュを壊さない」点にあります。ここが少し分かりにくいので、噛み砕いて説明します。
プロンプトキャッシュとは、ひとことで言えば「AIが、それまでのやり取りや読み込んだ資料を一時的に覚えている状態」のことです。会話を重ねるほど、AIは「この案件は何を目指していて、どんな前提があるか」を理解した状態になります。この積み上がった理解が、いわばAIの集中力です。
従来のやり方:セッションを切ると文脈がリセットされる
これまでのように、フォルダを移るたびにClaude Codeを閉じて開き直すと、この「覚えている状態」が一度ゼロに戻ります。新しく起動したAIは、さっきまでの話をまったく知りません。
結果として、「先ほどお願いしていた方針なのですが」と切り出しても通じず、もう一度ゼロから背景を説明し直すことになります。人にたとえるなら、打ち合わせのたびに初対面の相手と話し直すようなものです。
/cd のやり方:文脈を持ったまま移動できる
/cd を使うと、セッションが切れないので、この「覚えている状態」が保たれます。AIは直前までの会話を覚えたまま、机の上だけをB社のフォルダに差し替える、というイメージです。
「さっきA社で整理した考え方を、B社にも当てはめてみて」といった指示が、そのまま通じます。これが、複数の対象を行き来する働き方では大きな差になります。

複数案件・モノレポを横断する働き方でどう効くか
では、これが実務でどう効くのか。私自身の働き方を例に説明します。
私は、複数の案件や社内プロジェクトを、ひとつの大きなフォルダ構成(いわゆるモノレポ=複数の案件をひとつの場所でまとめて管理する方式)の中で扱っています。朝はA社の資料整理、昼はB社の問い合わせ対応、夕方は社内の仕組みづくり——というように、作業の対象がころころ変わります。
従来は、この切り替えのたびにAIとの会話がリセットされ、そのつど「いまから何の作業をするか」を説明し直していました。小さな手間ですが、1日に何度も繰り返すと、地味に集中力を削られます。
たとえば、こんなやり取りになります。
相談:「A社向けに作った業務ルールの整理、いい感じにできたね。同じ考え方をB社にも展開したい」
AIへの指示:「/cd でB社のフォルダに移って。さっきA社でまとめた方針を踏まえて、B社の資料に合わせて作り直してほしい」
結果:セッションは切れていないので、AIは「さっきの方針」を覚えたまま、B社のフォルダの中身を見て作業を始めます。私は背景を一から説明し直す必要がありません。
この「覚えたまま隣の案件に移れる」感覚は、複数案件を抱える一人会社や、少人数で多くの案件を回すチームほど効いてきます。
複数の案件をひとつの構成でまとめて扱う考え方は、こちらの記事でも詳しく解説しています。
「セッションを切らない」ことが業務にもたらす3つのメリット
/cd によって得られる実務上のメリットを、3つに整理します。
- 文脈の再説明が要らない:移動先でも「さっきの話」が通じるので、背景説明のやり直しがなくなります。
- 思考の連続性が保たれる:AIが直前の判断を覚えているため、案件をまたいだ「横展開」や「比較」の指示がそのまま出せます。
- 立ち上げ直しの待ち時間が減る:閉じて開き直す動作そのものがなくなり、移動が一瞬で済みます。
どれも一回あたりは数十秒から数分の差かもしれません。けれど、フォルダを行き来する回数が多い人ほど、その積み重ねが1日のテンポを左右します。
もうひとつ、見えにくいところでの効果もあります。AIが「覚えている状態」を一度ゼロに戻すと、次に動き出すときは、また同じ資料や前提を読み込み直すところから始まります。プロンプトキャッシュを保てると、この読み込み直しの無駄が減り、結果としてやり取りのテンポも、利用にかかるコストの面でも、ロスが小さくなります。複数案件を1日に何十回と切り替える人にとっては、この差が地味に効いてきます。

/cd が活きる具体的なシーン
もう少し具体的に、/cd が役立つ場面を挙げます。
- 複数案件の朝の棚卸し:A社・B社・C社のフォルダを順に見て、それぞれの「今日やること」を整理する。AIが前の案件の文脈を引き継ぐので、横断的な気づきも出やすくなります。
- 共通ルールの横展開:ある案件で作った業務ルールやテンプレートを、別の案件にも当てはめる。元の意図を覚えたまま移れるので、ブレずに展開できます。
- 本体と検証用フォルダの行き来:本番のフォルダと、試しに作った検証用フォルダを往復する。作る、確認する、直すのサイクルで、いちいち会話が途切れません。
共通しているのは、どれも「ひとつの頭で、複数の対象を順番に面倒みる」働き方だという点です。専任の担当者を案件ごとに置けない一人会社や小さな会社ほど、この働き方になります。/cd は、まさにその働き方のための機能だと言えます。
使うときの注意点と、相性のよい他のコマンド
便利な /cd ですが、使う前に押さえておきたい点もあります。
まず、移動先のフォルダにも、AIが状況を把握するための説明書きがあると効果が高まります。Claude Codeでは、フォルダごとに「このプロジェクトは何か」「どんなルールで進めるか」を記したファイル(CLAUDE.mdなど)を置けます。移動先にこれがあれば、AIは机を移した瞬間に、そのフォルダの前提も理解できます。
また、/cd はあくまで「作業対象を切り替える」ための機能です。会話そのものを巻き戻したい、過去の状態に戻したい、という場面では別のコマンドが向いています。文脈を保つ・管理するという観点では、次の記事もあわせて読むと理解が深まります。
まとめ:小さくて効くスイッチ
/cd コマンドは派手な新機能ではありません。けれど、複数の対象を行き来しながらAIで仕事を回す人にとっては、毎日の小さなストレスを確実に減らしてくれる一手です。
- /cd は、セッションを終了せずに作業ディレクトリ(作業対象のフォルダ)を移動できる新コマンド(バージョン2.1.169・2026年6月追加)。
- 最大の価値はプロンプトキャッシュ(AIが覚えている文脈)を壊さないこと。移動先でも「さっきの話」が通じます。
- Amazon Bedrock・Google Vertex・Microsoft Foundry・リモート実行にも対応し、利用環境を問わず恩恵を受けられます。
- 複数案件・モノレポを横断する一人会社や少人数チームほど効きます。背景説明のやり直しが消えます。
- 移動先フォルダにも前提を記したファイル(CLAUDE.mdなど)を置いておくと、効果がさらに高まります。
AIを「優秀な担当者」として雇っているなら、その担当者に毎回ゼロから事情を説明し直すのは、もったいない時間です。/cd は、その担当者の記憶をつないだまま、隣の案件の机に移ってもらうための、小さくて効くスイッチです。
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